「アヴァンチュールとか」

カノが、のぞきこんでいる。
「今、何時?」
「…夜だね。ホテル、帰る?」
海は、オレンジがかったむらさき色に染まってる。あたしは、ここでどのくらい気を失っていたんだろう?
「…宇宙見たでしょ。」
「う、ちゅーかあ。…わかんないなあ。気持ち良かったけど。何見たか、ぜんぜん覚えてない。」
カノが、またあたしの顔を覗き込む。「キミちゃんは、わかると思ったけどなあ。まあ、そのウチ、わかるかな。今日、誰かと会う?」
どきっ。カノは、どーしてわかるんだ? 今日は、アレだよ、港の近くのオイスターバーのにーちゃんと飲みに行くのだよ。去年は何もなかったけど、今年は、なんだかアバンチュールの予感なのだよ。神秘的な島の散策も、もちろん、スピリチュアルで魅力的! だけど、こんがり焼けた肌のバーのにーちゃんの笑顔と、あの厚い胸板の方が、もっと魅力的なのだ。
「キミちゃん、気をつけてね。」
「あんた、今、にやっとしたでしょ? なに? なんか知ってるの?」
気を失ったのか、魂を抜かれたのかわからないが、頭をぶつけたのは確か。頭の奥がぐらぐらする。それでも、あたしは、これから旅先でめいいっぱいのメイクを施すのだ。シャワーを浴びるのだ。いい香りを纏うのだ。部屋にお香もたいておこう。
「キミちゃん。」
「なに!?」
「イイコトあると思うよ。」
だから、そのにやにやは何なのよ? 
島の神様、どーか、今夜は変な目に遭いませんように。あの彼といい夜を過ごさせてください!

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